科学研究費 基盤B/C
我々は将来の医療を誰に託すのか?
医学部入学者の社会的背景の解明/多様化推進

研究成果

  • Suzuki Y, Tsunekawa K, Takeda Y, Saiki T. Impact of medical students’ socioeconomic backgrounds on medical school application, admission and migration in Japan: a web-based survey. BMJ Open 2023;13:e073559. doi: 10.1136/bmjopen-2023-073559
医学生の社会経済的背景を他の医療系学生・一般学生と比較し、医学科受験に与える影響を明らかにするために、2021年度にウェブアンケートによる全国調査を実施した。医学生1991名、歯学生224名、薬学生419名、看護学生326名、その他の医療系学生144名、一般学部生207名から回答を得て分析した。医学生は家族年収1800万円以上が25.6%を占め、薬学生8.7%、看護学生4.1%などよりも有意に多かった(p<0.01)。また医学生の33.2%は親が医師であり、他の医療系学生よりも有意に多かった(p<0.01)。医学生のうち、国公立のみ受験群は私立医学科受験群に比べ家族年収と親が医師である割合が有意に低かった(p<0.01)。 ロジスティック回帰分析の結果、親が医師、私立高校卒業、小学校時代から現在の職業志望は、医学科進学に有意に関連していた(p<0.01)。医学生の背景には地域差があり、都市部出身者の約8割は卒業後も都市部で働くことを希望していた。本研究により、日本の医学生の社会経済的背景が他の医療系学生や一般学生と大きく異なることが明らかになり、こうした医学生の背景の偏りは、今後も医師偏在が持続する要因になりうると示唆された。 幅広い社会経済的背景を持つ医学生を選抜し教育することは、医師偏在問題の是正や国民の幅広い医療ニーズに応えるために必要と考えられる。

論文URL:https://bmjopen.bmj.com/content/13/9/e073559.full

  • 鈴木康之、恒川幸司、武田裕子、川上ちひろ、早川佳穂、今福輪太郎、西城卓也.医学生の社会経済的背景に対する市民と医療系教育者の認識.医学教育 2024;55:217-227.
医学生の社会経済的背景に対する市民と医療系教育者の認識を明らかにすることを目的として、市民と医療系教育者に医学生の社会経済的背景に関する情報を提示してフォーカスグループを実施し、逐語を主題分析法により帰納的に分析した。その結果、医学生の家庭背景に関する6主題(家族の経済力に対する驚き、医師である親の影響、出身背景の均質さ、医学科受験の壁と諦め、社会経験の犠牲、家族の期待と本人の意志とのギャップ)、社会背景に関する5主題(格差社会と教育格差、中等教育の地域格差、学力偏重の弊害、医業世襲への懸念、不況下での医学科人気)、医学教育への期待に関する4主題(多様な背景を持つ学生の選抜、適性と意志に基づいた選抜、初等・中等教育からの経済支援、教育制度改革と教育支援)が抽出された。市民・医療系教育者ともに、医学生の社会経済的背景に問題意識を持っており、医学生の多様性を広げる必要性を認識していることが明らかとなった。本知見は今後の医学生選抜規準の再考に資するものである。

論文URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/55/3/55_217/_article/-char/ja

  • 鈴木康之、武田裕子.First-generation College Studentと社会経済格差.医学教育 2024;55:266.
First-generation college student (FGC) は学生の多様性を示す指標であるが、医療においても多様な出身背景の医療者が存在することによって、多様な医療問題に取り組むことができるという考えがあり、海外では医学生の多様性を向上させるために様々な取り組みが行われている。日本でも豊かな家庭背景を持った医学生がマジョリティを占め、医学部入学に有利な状況が存在するが、日本におけるFGCの実態を明らかにし、どのようにすれば社会経済的に不利な状態にある若者でも医学部受験を諦めることなく挑戦できるか、また医学部入学後も支援していけるか考えていく必要があるだろう。

論文URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/55/3/55_266/_article/-char/ja


取材記事

  • 「医学生の家庭環境は相当豊か」、調査で明らかに - 鈴木康之・岐阜大学名誉教授に聞く.医療維新 2024年7月15日配信
  • 「医学部志願者の門戸を拡大、多様化」が課題 - 鈴木康之・岐阜大学名誉教授に聞く.医療維新 2024年7月24日配信
  • 医師の多様性確保「入学前から生涯にわたるキャリアのデータが必要」.第56回日本医学教育学会大会「入学者選抜におけるダイバーシティ&インクルージョン」.医療維新 2024年8月19日配信
  • 医学部⽣の過半数が親の年収1000万以上、3分の1の親が医師と恵まれた背景が明確に.第56回⽇本医学教育学会⼤会で医学部⽣の社会経済的背景の調査結果を発表.シリーズ医学教育.日経メディカル 2024年8月26日配信